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円滑な相続手続きの進め方―遺産分割から相続放棄までの実務ガイド
第1 相続について
1 相続制度
相続とは、亡くなった人(被相続人)が保有していたすべての財産や権利・義務を配偶者や子どもなど一定の身分関係にある人(相続人)が受け継ぐことを言います。
注意すべきは、被相続人の債務、つまりマイナスの財産も受け継ぐ点です。つまり借金、未払いの賃料、未払いの税金なども受け継ぐことになります。被相続人が、ある程度資産を有していても、多額の負債が存在するときには、トータルで大きなマイナスになる場合も十分考えられます。
2 相続人はだれか(相続人の特定)
民法上、配偶者は常に相続人となります。
配偶者以外の相続人には、相続順位があります。先順位の相続人がいる場合、後順位の者は相続することができません。第一順位としては子どもなどの直系卑属、第二順位としては親などの直系尊属、第三順位としては兄弟姉妹が相続人となります。
例えば、被相続人に子がいれば配偶者と子が相続人となり、被相続人に子がおらず、親が存命の場合には配偶者と親が相続人となり、すでに親が亡くなっている場合には配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。
もっとも、遺言書がある場合、原則としては遺言書の内容が優先されることになります。この場合、遺言書で指定された人が相続人となります。なお、遺言書の内容通りに財産を分配したところ、本来いくらかもらえていたはずの相続財産がもらえなくなった場合等には、遺留分侵害額請求という金銭の請求をすることもできます。
3 代襲相続
例えば、①ご自身の祖父母が死亡する前にご自身の父母(死亡した祖父母側の父母)が死亡していた場合、ご自身は祖父母の孫であり子ではないため、相続できないとすると、②ご自身の祖父母が死亡した後でご自身の父母が死亡した場合と比べ、不公平になります。
そこで、民法では代襲相続という制度を定め、祖父母が死亡したときに、すでに父母が死亡していた場合には父母が相続する分を孫が相続するようにしています。また、被相続人の兄弟姉妹に相続権があるときに、すでにその兄弟姉妹がなくなっている場合にも、その子である被相続人の甥や姪に代襲相続が認められています。
第2 相続により財産を取得する際の流れ
1 死亡後7日以内にやるべきこと
⑴ 死亡届の提出
死亡届は、被相続人が亡くなった事実を知った日から7日以内に、市町村役場へ提出することになっています。原則として、医師から渡される死亡診断書を死亡届に添付することになっています。
⑵ 火葬許可申請書の提出
ご遺体を火葬するためには、死体埋葬火葬許可証が必要になります。死亡届を提出する際、同時に火葬許可申請書を提出すると、役所から死体埋葬火葬許可証をもらうことができます。
2 死亡後14日以内にやるべきこと
⑴ 年金の受給停止
被相続人が年金を受け取っていた場合、受給権者死亡届を年金事務所に提出し、受給停止手続きを行う必要があります。国民年金は死亡後14日以内、厚生年金は死亡後10日以内に年金事務所へ報告しましょう。死亡の報告せずに年金を受け取ってしまうと不正受給とされ、後々返還が求められますので、早めに報告を終わらせましょう。
⑵ 健康保険等の資格喪失
健康保険や介護保険は資格喪失の手続きが必要です。国民健康保険は市町村役場、社会保険は加入している健康保険組合に死亡した旨を連絡しましょう。
また、社会保険の被保険者が死亡すると、扶養されていた人は健康保険組合から埋葬料を貰うことができます。市町村については独自の一時金制度等を設けている場合もありますので、届け出た際に窓口でご確認ください。
3 死亡後1カ月前後にはやっておくべきこと
⑴ 遺言書の有無の確認
相続の事案は、遺言書がある場合と無い場合とで手続きが大きく変わります。まずは遺言書の有無を確認しましょう。
もっとも、遺言書は家庭裁判所による検認という手続きを要するため、勝手に遺言書を開封することは控えてください。
⑵ 相続人・相続財産の調査
遺言書が無い場合、遺産は、遺産分割協議という手続きで分配することになります。この遺産分割協議を行う前提として、相続人が誰なのか、被相続人の財産には何があるのか、という点を明らかにしなければなりません。相続人については、戸籍謄本等を集め、また相続財産については通帳や不動産登記簿謄本等を集めて、調査する必要があります。
4 死亡後3カ月以内に行うべきこと
⑴ 相続放棄、限定承認の申述
相続放棄をした者は、はじめから相続人とならなかったことになります(民法939条)。そのため、被相続人に負の遺産が多く、相続したくない場合は相続放棄を選択することになります。
また限定承認をした者は、被相続人のプラスの財産(不動産や債権等)の範囲内で、マイナスの財産(債務等)を相続することになります。マイナスの財産の総額が不明である場合や、後に巨額の負債が発覚した場合でも損をすることはありません。
これらの手続きをするには、「自己のために相続の開始があったことを知った時から」3カ月以内に家庭裁判所で、相続放棄や限定承認の申述をしなければなりません。
⑵ 遺産分割協議
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。そのため、相続人に漏れがないか、特に注意しなければなりません。また、協議が整った際には、後の紛争を回避するため、遺産分割協議書を作成することになります。
5 死亡後4カ月以内にやるべきこと
相続人が被相続人に代わって確定申告を行わなければならない場合あります。これを準確定申告といい、被相続人が自営業者や個人事業主の場合、給与所得と退職所得以外の所得の合計が20万円を超える場合等には、準確定申告を行う必要があります。また、相続開始を知ってから4カ月以内に行う必要があります。
6 死亡後10カ月以内にやるべきこと
相続により財産を得ることから、相続税の申告と納税をしなければなりません。申告と納税の期限は、相続開始後10カ月以内です。
また、遺産分割協議が完了していなくても、相続税の申告と納税は行う必要があります。この場合、法定相続分によって申告と納税を済ませ、後に遺産分割協議が完了した際に、更正請求を行って、払いすぎた分の還付を受けたり、不足分を支払ったりします。
7 死亡後1年以内にやるべきこと
遺言や死因贈与によって、過大な贈与や相続が行われた場合、自己の遺留分(民法上、取得することが保障されている相続財産)を侵害されたとして、遺留分侵害額請求を行うことでお金を取り戻すことができます。
遺留分侵害額請求は、相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内に行わなければなりません。
第3 弁護士に依頼するメリット
1 複雑な調査や手続きの手間が省ける
第1で記載したように、相続は期間内に様々な手続きを行う必要があります。手続きの中でも財産等の調査や遺産分割協議は特に手間がかかります。
相続する財産は何か、相続人が誰であるかなどを調査する際、財産や相続についての関係者が多数存在すると、正確に調査するために時間がかかります。弁護士に依頼すると、そのような調査のストレスを軽減できます。
また、遺産分割協議という手続きは、相続財産の分配方法を決める手続きであるため、話し合いがまとまらず、長期化することがあります。弁護士は法律の専門家として交渉するため、自分で交渉するよりも相手方を説得しやすい場合があります。
2 適切な手続き選択ができる
相続放棄すべきか、限定承認すべきか、遺留分減殺請求をすべきか等の判断は、相続の手続きや相続から派生しうる法律問題について知らなければ、長期的にみて損をする場合や、新たな紛争に巻き込まれる可能性があります。弁護士に相談すれば、適切な手続き選択が期待できます。
また、遺言書作成等、重要な手続きをするにあたり、適切な文言で作成する必要があります。遺言書の文言等によって、相続時に遺言の内容を争わられたりする場合もあります。弁護士に依頼すれば、適切な文言を用いて、重要手続きを誤りなく行うことができます。
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債務整理と自己破産―借金問題解決の実務ガイド
第1 債務整理
債務整理とは、債権者との交渉や裁判所の手続きを利用することで、債務(借金などのことです。)の負担を軽減することをいいます。
債務整理は、貸金業者と交渉などの任意整理、「自己破産」、個人再生など様々な方法があります。
資産状況、債務状況等などからベストな方法を考える必要があります。
第2 自己破産について
1 自己破産とは
自己破産とは、支払不能に陥った債務者の申立てにより、最終的には特定の債務を除いて支払いを免れるための裁判上の手続をいいます。もっとも、自己破産手続が開始されたからといって、手続開始時の債務の返済を当然に免れるわけではなく、別途免責許可というものを受ける必要があります。破産することになった原因がギャンブルや浪費などの場合、この許可が受けられないことがあります。
2 自己破産のメリット・デメリット
⑴ メリット
自己破産を選択する最大のメリットは、免責許可決定を受けることで、特定の債務を除いて、手続開始時の債務について、返済を免れられることです。
⑵ デメリット
- 資産価値のある不動産や車など自由財産(保有することが認められる範囲の財産のことです。)として認められない財産を手放さなければならない
- 免責許可決定が確定するまでの間、弁護士等の士業、警備員などの一定の資格の制限を受ける
などが挙げられます。
3 自己破産の流れ(一例)
⑴ 破産手続開始申立
受任通知の発送により取り立てをストップ、債務等の調査などをして、申立ての準備をします。
⑵ 破産手続
破産手続には、破産管財人が選任され財産調査・配当等を行う管財型と、破産手続を開始する決定と同時に破産手続を終了させる廃止決定というものを行う同時廃止型に分かれます。
目安としては破産手続に必要な額のお金や財産がある場合は管財型、ない場合は同時廃止型になります。
⑶ 免責手続
債権者から意見を聴く期間などを経て、一定の事情がない限り、一部の債務を除いて債務の支払義務を免除されます。
第3 弁護士に依頼するメリット
自己破産は、裁判所がHPに掲載している定型の書式などを利用して、自分で申し立てることはもちろん可能です。その場合、自己破産にかかる費用は、申立ての手数料や管財型の場合に要する予納費用等などで済み、決して安くはないお金を弁護士等に支払う必要はありません。
ですが、特に自己破産の原因がギャンブルなどで免責されない可能性がある場合でも、弁護士に相談・依頼すれば何とかなることがあるので、弁護士に依頼するメリットもあります。
他にも、弁護士なら手続きすべて代理人として行うことができます。
借金等でお悩みの場合、まずは相談してみましょう。
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交通事故後の適切な行動と損害賠償交渉のポイント
交通事故を起こした加害者は民事責任のみならず、場合によっては刑事責任も負う可能性があります。もっともここでは主に民事責任について触れることにいたします。
交通事故に遭われた場合、被害者は、加害者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)をすることができます。他方で、加害者は、交通事故(不法行為)と被害者のケガ(損害)との因果関係を争ったり、過失相殺を主張する等して、賠償額の減額を試みることになります。
どちらの立場にしても、示談交渉や訴訟に備えて、事故後にどのような行動をとることが適切なのか、また、自分で解決する場合と、弁護士に依頼する場合でどのような違いが生じるのかも、併せて確認しましょう。
第1 交通事故に遭ったら、何をするべきか
1 すぐに警察に通報する
警察に通報することで、事故状況の見取り図等を作成してもらうことが可能です。後にお互いの過失の割合を判断する場合等に役立ちます。
また、事故直後から痛みがあったり、負傷していることが明らかであれば、人身事故として届出を出しましょう。
2 事故についての情報を集める
⑴ 加害者の個人情報
加害者の名刺や運転免許証から、運転者の名前、住所、勤務先等の情報を集めることができます。加害者が任意保険に加入していない場合、保険会社ではなく、加害者本人に損害賠償請求することになりますので、必ず加害者についての情報を確認しましょう。
⑵ 車の所有者の情報
加害者車両のナンバーや車検証から、車の所有者が分かります。加害者と所有者が異なる際に、所有者に対しても自動車損害賠償保障法に基づく損害賠償請求が可能になる場合があるので確認しましょう。
⑶ 加害者の保険の情報
加害者が自賠責保険に加入しているか、どこの会社の任意保険に加入しているか確認しましょう。特に、任意保険に加入しているか否かは、今後の損害賠償金の回収可能性に大きく関わるものなので、確認しましょう。
⑷ 加害者の説明
加害者が、事故当時に行った説明は、後に内容が変わることも珍しくありません。加害者の説明をメモしたり、録音したりするなどして記録しましょう。
3 現場・現場周辺の状況を確認する
⑴ 車の破損状態
事故当時の現場状況や車両の破損状況は、事故態様や、事故が被害者に与えた影響を推測させる証拠になります。スマホでもいいので、事故現場や事故車両の写真を撮影しましょう。
また、事故で損傷した車を修理・廃車する前にも、破損状況が確認できるように写真を撮影しましょう。
⑵ 事故の目撃者
事故後に、事故の態様が争われる場合に備えて、事故現場に目撃者が居ないかを確認しておきましょう。目撃者が居る場合には、目撃者の連絡先を確認しましょう。
4 病院を受診する
事故から数日以上経って受診した場合、交通事故と怪我との因果関係が争われる場合があります。できる限りはやく病院を受診しましょう。また、受診の際の明細や領収書は損害を証明する証拠になるので、保管しておきましょう。
第2 弁護士に依頼するメリット
1 損害賠償額を適正な基準(裁判基準)で算定できる。
交通事故における損害賠償額は「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判基準」という3つの基準により算定されます。
「自賠責基準」は自賠責保険会社が算定する基準です。自賠責保険は被害者に対する最低限の保障という役割を担っていますが、基準は低額に抑えられています。
「任意保険基準」は任意保険会社が算定する基準です。基準は非公開で、また各保険会社によって基準が異なります。しかし、一般的には自賠責よりは高額な基準であるものの、裁判基準よりは低いということが多いです。
「裁判基準」は、裁判となった場合に利用する「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準」に基づき算定されます。一般的には裁判基準に基づいて算定する損害賠償額が最も高額になります。
参考として、交通事故による後遺症の慰謝料を請求する場合、自賠責基準と裁判基準でどの程度の差があるのかを下の表を確認してみてください。
等級 自賠責基準 裁判基準 差額 1級 1100万円 2800万円 +1700万円 2級 958万円 2370万円 +1412万円 3級 825万円 1990万円 +1161万円 4級 712万円 1670万円 +958万円 5級 599万円 1400万円 +801万円 6級 498万円 1180万円 +682万円 7級 409万円 1000万円 +591万円 8級 324万円 830万円 +506万円 9級 245万円 690万円 +445万円 10級 187万円 550万円 +363万円 11級 135万円 420万円 +285万円 12級 93万円 290万円 +197万円 13級 57万円 180万円 +123万円 14級 32万円 110万円 +78万円 私たち弁護士は、代理人として保険会社との交渉を担当する場合、高額な「裁判基準」に基づいて損害賠償額を算定し、その金額をベースに交渉いたします。
2 弁護士に示談交渉を任せることができる
加害者が任意保険に加入している場合、保険会社から被害者に連絡が入り、示談交渉が始まります。交通事故の示談交渉では、専門用語が飛び交うこともしばしばあり、保険会社の説明がよくわからないという事態が生じ得ます。また、保険会社側は裁判基準と比べて低額な任意保険基準での示談を求めるため、被害者としては心無い対応を取られたと感じる場面もあります。
弁護士に示談交渉を任せれば、示談交渉から生じるストレスを回避することができます。また、専門的な用語も、弁護士が分かりやすく説明するため、交渉の進捗や賠償金の見通しも正確に把握することができます。
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労働紛争解決の進め方と証拠確保のポイント
第1 はじめに
1 進め方
労働紛争は、
- 今後も従業員として働き続けたいのか、
- 退職も考慮し、訴訟等を用いて会社などと全面的に争うのか、
依頼者の要望を確認する必要があります。
①②によって争い方が変わってくるからです。
2 ①今後も従業員として働き続けたい場合
協議や労働審判手続を用いて迅速・穏当に解決を目指すことになります。
労働審判手続とは、個々の労働者と事業主との間の労働関係のトラブルを,その実情に即し,迅速,適正かつ実効的に解決するための手続です。
訴訟手続とは異なり、非公開で行われ、原則として3回以内の期日で審理を終えることになっているため,迅速な解決が期待できます。
3 ②退職も考慮し、訴訟等を用いて会社などと全面的に争う場合
訴訟等を用いて会社などと全面的に争う場合、できるだけ有利にすすめるために、いつ退職するのかは極めて重要です。また、証拠の収集もより重要になってきます。特にこのような場合は、退職を考慮しているが上司や会社には何も伝えていない段階で、専門家である弁護士と事件の進め方などを相談する方がよいでしょう。
4 証拠
労働問題では次のようなものが証拠になります。
⑴ 労働条件に関するもの
雇用契約書、就業規則、労働条件通知書など
⑵ 残業代請求に関するもの
労働時間管理記録(タイムカード)、業務記録、勤務日報、給与明細など
⑶ ハラスメントに関するもの
診断書、メール、録音など
第2 残業代請求
労務提供の対価として、賃金は当然支払わなければなりません。
労働時間に見合った賃金を受け取っていなければ、未払い分の支払いを請求することができます。
請求するには、残業等していることが分かる証拠が重要です。
これでないといけないということはありませんが、タイムカード、業務日報、メモなどが証拠となります。
注意点として、2020年3月31日までに支払う必要があった残業代については、消滅時効により2年経過すると請求できなくなります。もっとも、法改正により、2020年4月1日以降に支払う必要が生じた残業代については、消滅時効の期間が3年に延長されました。
第3 解雇
解雇とは、使用者によって一方的に労働契約を解約することをいいます。解雇にはいくつかの種類がありますが、どのような解雇であっても、一定の要件を充たさない解雇は無効です。
無効な解雇かどうかは、法律的な判断であるため、まずは専門家に相談された方が良いでしょう。
第4 退職
辞めるなら代わりの人材を見つけてから、今辞められたら困るなど様々な理由をつけて会社が退職させてくれない場合があると思いますが、このようなことは許されません。
自分が就業先と交渉するという心理的負担なく、迅速に退職することを望む場合、弁護士に依頼するのも手段の一つです。
弁護士であれば、退職を適切にサポートするとともに、付随する法的問題に対処することが可能です。
第5 職場におけるハラスメント
職場におけるハラスメントとして、セクハラ・パワハラなどがあります。
現在は、中小企業を含めた事業主に対し、いわゆるパワハラ防止法により、パワハラ防止のための適正な施策の実施、また、従業員からパワハラの訴えがあった場合の速やかな調査等の対応が義務付けられています。
セクハラとは、職場における相手方の意に反する性的な言動による嫌がらせをいい、パワハラとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいうとされています。
このような文言をみると、職場における嫌がらせがセクハラやパワハラなどに該当するのか判断するにあたり、法律的知識が必要不可欠です。
また、職場における嫌がらせは、証拠が残らない形でされることも多く、特に証拠をどのように確保するのかということが重要になってきます。
これらのことからすると、もし
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賃貸人から立ち退きを請求されている場合、賃借人は断ることができるのか
借地・借家関係は複雑な法律関係であり、古くから契約関係が継続し、その内容も明確でないことも多く存在します。また、日常生活そのものに直結する場面でもあり、法的紛争に発展しやすい場面といえます。
さらに、借地借家法の適用もあり、賃貸人、賃借人いずれの立場からも早い段階で法律の専門家である弁護士のアドバイス・介入を受けることで無用な紛争を防止でき、不当な要求を受け入れることを回避できます。
第1 賃貸人から立ち退きを請求されている場合、賃借人は断ることができるのか
1 「正当の事由」のない立退請求は、断ることができる。
契約期間が設定された賃貸借契約において、賃貸人は、一般的には、賃貸借契約の更新日の6か月前までに、賃借人に対して更新をしない旨を通知した場合、賃貸借契約が更新されることはなく、更新日において契約を終了させ、立ち退きを請求することができる状態になります(借地借家法21条)。
もっとも、更新をしない旨の通知がなされたとしても、必ずしも賃貸借契約が終了するわけではありません。更新をしない理由が「正当の事由」でなければ、賃貸借契約は終了しません(借地借家法28条)。
賃借人の権利は法律上保護されており、「正当の事由」のない立ち退きの請求に応じる必要はありません。
2 「正当の事由」とは
正当の事由は、当事者双方が土地や建物等を使用する必要性、建物の利用状況、立退料の有無とその金額等を考慮して判断されます(借地借家法28条)。
例えば、賃貸人が建物を処分することを計画しており、建物の処分に取り掛かろうと準備しているのに対し、賃借人は借りている建物の他に、居住用の建物を所有しており、必ずしも借りている建物を利用する必要が無い場合などには、相互の必要性が比較的に検討され、正当の事由が認められる(立ち退く必要がある)と判断される場合があります。
また、賃貸借契約期間満了直前に、賃借人が新規の営業(事業)を行うために、賃貸不動産を利用し始めた場合、営業が開始している以上、一般的には賃貸不動産を使用する必要性は高くなります。しかし、期間満了直前である点を重視して、移転による顧客の喪失等の損害も小さく、賃貸不動産で事業を行う必要性は一般的な場合よりも低いとして、立退料の提供をもって、正当の事由が認められる(立ち退く必要がある)と判断されることもあります。
このように、建物を使用する必要性等は、判断が容易なものから、個別の事案に着目しなければ、正確に判断できないものもあり、判例や法律的な理解が必要になります。
第2 弁護士に依頼するメリット
1 適正な立退料を検討し、交渉できる
立退料の額は、正当の事由と大きく関わります。立退料を増額・減額交渉する際には、立退料を支払わない場合に正当の事由が認められる(立ち退き請求が認められる)見込みが、どの程度あるかということがベースになります。
賃貸人としては、正当の事由の見込みがあるのであれば、立退料は減額の方向に、無いのであれば増額の方向で交渉を進めます。一方で、賃借人としては、賃貸不動産を使用する必要性を手厚く主張し、立退料を増額する方向で交渉を進めることになります。
弁護士に依頼すれば、具体的な事案に即して、法律的な観点から適正な立退料を算定し、交渉を有利に進めてもらうことができます。
2 交渉、訴訟などがスムーズに進められる
賃借人の権利は法律上保護されており、また賃借人は、立ち退き請求により住む場所や営業する場所を失うことになるため、立ち退き請求に応じない場合も少なくありません。反対に、賃貸人が、賃借人の権利を無視して、一方的に立ち退きを請求する態度を取り、交渉がスムーズに進まない、長期化するという場合もあります。弁護士に依頼することで、このような交渉のストレスを軽減することができます。
また、弁護士は法律の専門家としての立場から交渉するため、相手方を説得できる可能性も高くなります。
そして、もしも交渉で折り合いがつかなかったとしても、明渡請求訴訟や強制執行を行うこととなったとしても、交渉段階から事件を担当していた弁護士であれば、事情を把握しているため、その後の手続きにもスムーズに対応できます。
第3 立ち退きの相談を進めるポイント
1 関係書類をまとめる
賃貸借契約書や重要事項説明書は、賃貸不動産の利用形態が分かる書類なので必要になります。法律相談の際に持参しましょう。
また賃貸借契約締結の経緯も正当の事由の判断に役立ちます。経緯等から賃貸借を継続する必要性が高いと判断された場合、立退料は高額になります。法律相談時に経緯を思い出せなかったり、うまく伝えられなかったりする場合に備えて、簡単にまとめておきましょう。
2 事前の確認
過去に賃料の不払いや、賃借人による必用費(雨漏りなどの修理を実費で立て替えた場合に賃貸人に請求できる費用)の支出が無いか等、賃貸借契約に関係する債権・債務が無いかを確認しましょう。賃料等の不払いも立退料の算定に影響します。
また、引っ越しする予定の不動産の賃料、敷金、礼金等、移転にかかる費用も何件か確認しておきましょう。現在、賃貸・賃借している不動産と環境や賃料等条件が近ければ、移転費用も立退料に考慮されます。
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示談交渉について①
当職は、示談交渉による事件解決の経験が多いため、示談交渉について少しお話しします。
1 示談の成立しにくい紛争
一般に示談交渉による解決のメリットは時間の短縮と調停、訴訟費用の低減、有利解決の可能性があります。また、一般的に示談交渉による解決が難しいのは、協議離婚、遺産分割協議など、家事関係の紛争です。理由は、紛争が弁護士のところに持ち込まれるまでに既に感情的対立になっており、相互不信が極に達していることが多いからです。
このような示談の成立しにくい紛争の場合は、示談の見切りが非常に重要です。例えば、離婚を裁判所に求める際には、調停前置主義により、まずは離婚調停、調停で離婚が成立しない場合には離婚訴訟により解決を図ることになりますが、早くても1年、長くなれば4、5年かかることもあります。
例えば、離婚事由があり、早期に離婚したいと考えている依頼者の場合、確かに協議で離婚が成立すれば早期解決に至りますが、協議による離婚が成立しないのに長期にわたり協議を重ねると、それだけで依頼者が精神的に疲弊し、体調を崩したり、精神的に不安定になったりすることもあります。
金銭的請求の場合、こちらの求める額と相手方の提示額との間に大きな差があれば、示談の見切りは容易ですが、離婚などの身分関係については相手方の本音を覚知することが難しく、示談の見切りの判断は容易ではありません。
2 依頼者に対し、その立ち位置をきちんと伝える。
示談交渉のスタートは、依頼者のお話を十分に聞きとり、リスク等も検討した上で、法的な観点から紛争の妥当な落としどころのイメージをつかみます。
この点、弁護士が注意しないといけないのは、依頼者の話だけを聞いた段階では、目の前にいる弁護士を味方につけたいため、自己に不利な情報を伝えない傾向が一般的に認められることです。
次の段階では、相手方、もしくは相手方の代理人から、紛争に関する情報、特に依頼者に不利な情報を聞き取ります。依頼者に不利な情報のうち、依頼者から聞き取れていない情報については、依頼者に確認を行います。
その上で、依頼者の主張、主張を裏付ける証拠の存否、その価値、相手方の主張と主張を裏付ける証拠の存否、その価値を検証し、本紛争が調停や訴訟に持ち込まれた際にどのような結果になるかを想定します。
次に大事なことは、依頼者に対し、現在、弁護士が把握している依頼者の立ち位置(有利な点、不利な点、訴訟に進んだ場合の結果の予測等)をきちんと伝えることです。
この作業をいい加減にすると、後に依頼者説得が難しくなります。もちろん、結果の予測は、後に依頼者に有利・不利な証拠が出てくる場合などあり、必ずその通りになるとは限りませんが、少なくとも弁護士が現在把握している情報により立てた予測や根拠は、依頼者に正確に伝えないといけません。
弁護士も依頼者との関係が悪化することは避けたいですから、依頼者の当初の意図より不利になっている場合には、その予測を伝えるのは勇気がいることです。しかし、ここをごまかすと示談による解決は難しくなることは間違いありません。
大事なのは、当初の意図より不利になっている場合には、そのことを伝えるとともに、その理由も明確に説明し、納得してもらうことです。また、そういった作業を繰り返すことにより、依頼者と弁護士との信頼関係が醸成されていきます。
3 依頼者から結論について裁量を貰う。
次に、相手方と具体的な交渉に入ります。
この場合、依頼者からどこまでなら譲歩できるのか、ということを事前に確認するのですが、裁量の幅が大きいほど、示談による解決の可能性は高まります。というのは、示談交渉は「なまもの」です。相手方も結論が妥当かについて考え、その都度、揺れるのです。
具体的な事例を想定してみましょう。
例えば、依頼者が相手方に対し、1000万円の債権を有しているため、回収してもらいたい、という事案を想定します。
弁護士が債権の存在を裏付ける証拠を確認したところ、500万円しか訴訟に耐えうる証拠がありません。
そこで、弁護士は、証拠により固いのは500万円です、と依頼者に伝えます。その上で、早期解決のため、いくらまでなら減額可能ですか、と確認します。
すると、①依頼者Aは、残りの500万円も口頭で約束したから、相手方は知ってるし、支払うはずだ、だから1000万円請求して欲しい、減額は200万円までで対応ください、とのことでした。他方、同じ事例において、②依頼者Bは、同じく1000万円請求してもらいたいですが、証拠により固いのは500万円でしたら訴訟費用も時間もかかるので、500万円の減額までなら我慢します、とのことでした。
相手方と交渉したところ、600万円ならすぐにお支払いします、との回答を得ました。①の場合、持ち帰りになりますが、②の場合、和解が成立することになります。
その後、相手方が交渉の時点では600万円払うつもりだったが、弁護士に相談したら、せいぜい500万円程度しか支払う必要はないと言われた、おまけに別途訴訟費用がかかるし、うちの財務状況も厳しいので、やっぱり300万円しか払わない、と態度を変えました。こういうことは交渉をしていればよくある話です。
①の場合になり、少しづつハードルを下げる交渉をする場合、当職の経験上、協議が行き詰まる可能性が高いです。弁護士は、和解を成立させるについては、裁量をできるだけ確保するよう、依頼者を正しく説得する必要があるのです。
文責 弁護士 山田
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示談交渉について②
当職は、示談交渉による事件解決の経験が多いため、示談交渉について少しお話しします。
4 和解の見切り時
和解の見切り時は重要です。
およそ成立しない和解協議を続けることに意味はありません。
例えば、先ほどの事例において、相手方がさしたる根拠もなく100万円程度を提示してきた場合、当職であればおよそ和解の成立しない相手方とみなし、すぐ法的手続きに移行した方がいいと依頼者にアドバイスすることになります。
たまに、最初から強気の主張をした方が示談交渉を有利に進めることができると勘違いする弁護士がいます。しかし、いたずらに無茶な主張が最初に出てきたら、和解の可能性なしと判断し、すぐに法的手続きの準備を始めます。成立しそうもない和解協議を続けることは本当に無駄だからです。
5 依頼者説得
依頼者説得というのは、依頼者と弁護士との間で、率直に状況を伝え、その時々の状況に応じ、和解に向けて依頼者をきちんと説得することです。
これは依頼者との間で、都度都度に、進捗状況や依頼者の現在の立ち位置を正確に伝え、その根拠を説明することを繰り返し、依頼者とミュニケーションをしっかりと取り、依頼者との間の信頼関係が十分に醸成されていなければできません。かかる関係性がないまま、無理に依頼者説得をしようとしてもかえって弁護士への不信感のみが高まることになります。
そして、この依頼者説得は、和解協議の最終段階で必ず必要です。
これがしっかりできない弁護士は、相手方から提案があった和解案を持ち帰り、依頼者に意見を聞いて相手方にそのまま伝える、また、相手方から提案があれば持ち帰り、依頼者に意見を聞いてそのまま伝える、という作業を延々と繰り返すことになるため、和解の成立に非常に時間がかかるか、場合によっては相手方との交渉における信頼関係が消滅し、不成立になります。こういう弁護士のことを伝書鳩弁護士と呼びます。確かに、これなら代理人ではなく、使者といった方が正確かもしれません。
現状で、依頼者のために一番利益のある結論は何か、このことを冷静に分析し、結論を見定め、必要に応じ、依頼者を積極的に説得する、という姿勢が弁護士には求められます。
6 その他
そのほかに重要なことは、依頼者の真意は正確に把握する必要があるという点です。
例えば、先ほどの事例で、依頼者Bは、500万円までなら減額されても仕方がない、とのことで、弁護士はそこを最低のラインとして交渉します。この場合に重要なのは、相手方から具体的に500万円の提示があった場合、依頼者Bが本当に500万円で納得するのかという点です。
先ほど申し上げたように500万円ということであれば、訴訟を見越して、その費用や解決にかかる時間が短縮できるため、十分に和解を成立させるメリットはあります。しかし、依頼者は、本音では500万円での妥結を望んでおらず、500万円であれば事実上、負けに等しいと考えていた場合、やはり500万円での和解を急ぐべきではありません。特に最低ラインの確認という作業には慎重を要します。このあたりの依頼者の真意、相手方の本音は交渉の中でしっかり見抜く必要がありますが、それが可能になるには示談交渉の経験や社会経験が大きな助けになります。
それから依頼者によってはおよそ法的には難しい無理筋の主張をとりあえず相手方にぶつけてもらいたい、と言ってこられる方がおられます。しかし、例えば、不貞の慰謝料、離婚に伴う財産分与、婚費・養育費の額など、多くの事例における裁判所の判断基準がネットを見ればすぐに確認できる時代になっていますから、とりあえずであろうと、そのような無理筋な主張を相手方にぶつけることは、結局、和解での解決を難しくさせるだけであり、利益がないばかりか、害悪が多いということも理解していただく必要があります。
その他、示談交渉においては、さまざまに注意する点があります。示談交渉は繊細かつ大胆にメリハリをもって進める、示談の見切りは早めに無理なら速やかに訴訟に移行する、ということが必要であり、社会経験が役立つことから、当職のような社会人経験の豊富な弁護士が有用な分野と考えている訳です。
文責 弁護士 山田
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弁護士を選ぶ際に重要なこと
みなさんは、どのような基準で弁護士を選ばれるでしょうか?
弁護士を選ぶ際には色んな要素があると思います。法的知識、実務経験、意欲、誠実さ、個人的相性、報酬の多寡などです。法的知識や実務経験が重要なのは当然ですが、意欲や誠実さも非常に重要だと思います。
例えば、示談交渉の場合、着手金を支払い、示談交渉で解決すれば報酬金を支払います。
けれども、示談交渉において、弁護士が相手方とどこまで突っ込んだやり取りをしてくれているかは、正直、依頼者からは非常に分かりにくいところです。示談交渉は相手方があることなので、相手方の特性によってはそもそもまとまらない可能性もあります。
A弁護士に依頼して、A弁護士が一生懸命相手方と交渉してもまとまらない。B弁護士に依頼して、B弁護士はほとんどまともに交渉しないため、まとまらない。どちらも結論は同じですが、依頼者は弁護士から報告を受けるため、どこまできちんと交渉してくれているか分かりません。
例えば、弁護士に示談交渉を依頼した。弁護士は依頼者と話をし、具体的な事情をきいた上で、依頼者の希望は300万円だが、150万円が妥当な落としどころだろうと考えた。相手方と交渉を継続したところ、相手方からは150万円なら和解するとの提示があった。
この場合に、A弁護士は、依頼者に対し、300万円を請求されたいかもしれないが、これが訴訟等に移行し、判決になれば150万円くらいになるし、訴訟等になれば別途弁護士費用等(訴訟の着手金、印紙代等)がかかるから150万円でも和解した方がいいとアドバイスした。A弁護士と依頼者との間の信頼もあり、依頼者がA弁護士による説得に応じ、依頼者と相手方は和解した。他方、B弁護士は、事件について依頼者は150万円では納得しない様子であったので、依頼者を説得するのは面倒と考え、依頼者説得を全くせず、示談交渉を打ち切り、訴訟を提起した。後者の場合に仮に150万円の判決が出たとすれば、依頼者は訴訟の着手金等と解決までの時間を失うことになります。
訴訟に移行した場合に、どのような結論になるかは、弁護士でないと正確な見通しを抱くことは困難ですし、依頼者には分かりにくい。もっとも、訴訟に移行すれば弁護士にも予期できない証拠や事情が出てきたりし、見通しと異なる結論となることもあります。しかし、どうでしょうか、少なくとも弁護士がある程度、見通しを固めているのであれば、誠実に依頼者にお伝えし、依頼者を説得すべきではないでしょうか。
一般に示談が得意な弁護士はコミュニケーション能力が高い傾向がありますが、弁護士自身が示談で終わらせるという意思・意欲が高くないといくらコミュニケーション能力が高くても示談では終わりません。ところが、一般の方々は弁護士に依頼することは一生のうち、そう何度もある訳ではありません。目の前の弁護士が誠実な弁護士なのか、きちんと対応してくれるのか、分からない訳です。この点が一般の方が弁護士を選ぶ際に一番難しい部分かなと思います。
では、報酬の多寡により弁護士を選ぶのはどうでしょうか。
例えば、先ほど申し上げた示談交渉の際のやり取りは、弁護士の紛争解決業務のほんの一場面にすぎません。弁護士に依頼した場合、弁護士は依頼者に属する権利について広範な裁量をもって交渉、申立て、訴訟等をするわけです。また、事案によっては、紛争解決までに何年にもわたることも珍しくありません。このようなことを依頼する際に、ただ報酬の多寡だけで弁護士を依頼されるのは心配ではありませんか。
この点、現在、弁護士の報酬は、公取委からの独禁法違反の指摘により、旧弁護士報酬基準が廃止され、表向きには各事務所が自由に報酬を定めてよいことになっていますが、多くの事務所は旧弁護士報酬基準に従った報酬基準を定めており、弊所も同基準に準じた報酬基準を定めています。その上で、弊所では、相談者からお聞きした事件の具体的内容・難易度によって多少の調整をし、依頼を検討される際には事前に報酬額をお伝えするようにしています。
他方、報酬自由化を受け、法的紛争処理の手順や対象を細かく分類し、非常に分かりにくい報酬体系にした上で、一つ一つの費用は安く見えるものの、総額では高くなるように設定している事務所もあります。
上述の事情を踏まえて考えますと、報酬額の過多だけで弁護士を決めるのは危険です。また、仮に報酬の多寡により弁護士を決める方においても、旧弁護士報酬規程に準じる報酬規程以外の報酬規程を設けている事務所については、依頼の際に、報酬の総額はいくらになるのか、追加報酬の設定はないのか、あるとすればどういう条件なのか、をしっかりと確認されることが重要です。
そして、相談の際、目の前の弁護士が誠実であるか、信頼できそうか、自分との相性がよさそうか、話しやすいか、などの人柄を観察しながら、依頼したい紛争に関する知識や経験が十分か、も確認し、依頼先を決められるのが一番いいと思います。例えば、相談時に何か信頼できない言動を感じた場合、その直感は重要だと思います。あらゆる懸念を相談時に弁護士にぶつけ、曇りがなくなった状態で依頼できることが一つの目安になるのではないかと思います。
弁護士 山田
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労働紛争
労働紛争ですが、弊所は労働者側の依頼がほとんどです。
労働問題が紛争化する前に、弊所の顧問先の事業所様には事前に相談いただき、違法な対応にならないようにアドバイスさせていただきます。弊所の顧問先の事業所様は弊所のアドバイスに誠実に対応して下さるので、労働問題が法的紛争にまで発展することは今までありませんでした。したがって、労働者の方の個別の依頼により、労働者側の代理人として事件処理をすることが多くなるということになります。しかし、労働者側の代理人はなかなか大変です。
大変な理由は①証拠が使用者側に偏在していること、②手持ち証拠が少ないこと、③証拠の収集が困難なこと、という構造的な問題だけでなく、④労働者(依頼者)の弁護士に対する依存性が高いこと、⑤依頼者が独善的であること、という依頼者側の特性もあります。
①は一般的であり、③は①を受けてのものです。②については、相談に来られた際に証拠がほとんどなく、立証しようがないことがあります。この時点で、在職しており、使用者、もしくは使用者側の者が、依頼者の不満に気づいていない場合であれば、ここからの証拠収集も考えられますが、既に退職していたり、既に労働問題についての不満を明らかにしている場合には将来的な証拠確保の可能性も低く、紛争解決の方針さえ立てることができません。
依頼者側の特性としては、④既に精神的に不安定になっており、依頼を受けた後に頻繁に報告を求めたり、訴訟方針についても細かく指示をしてきたりされる方が他の訴訟類型と比べて格段に多いです。そして、⑤との関連では、法律論を離れて自分はこんなに酷いことをされているので報われてしかるべきであるとか、なぜ裁判所は分かってくれないのか、裁判所は不公平であるとか、訴訟の構造や立証責任の問題を説明しても十分理解せず、不満をぶつけてこられる場合が他の訴訟類型と比べても格段に多いです。したがって、未払残業代の請求などの典型的な労働紛争については対応している事務所は多いものの、個別の面倒な労働紛争を受ける事務所は少なく、弊所にはそういった相当手数のいる複雑な事件が多く持ち込まれます。
ただ、上述の点を十分理解して下さる依頼者はほとんどおられないというのも、労働問題に関して代理人として受けにくい点です。
しかし、労働問題は日常的に起こりうるものであり、解決が必要な問題です。早期に解決することが必要な問題でもありながら、現行法規では十分に対応できておらず、なかなか悩ましいところです。弁護士 山田
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離婚調停の進め方
離婚をする際に決めておかなければいけないことは、①離婚そのもの、②離婚までの婚費、③離婚後の養育費、④財産分与、⑤年金分割、⑥面会交流などです。そして、①離婚自体を争わない場合、それぞれ単独で申し立てることはできますが、通常は、手続きが簡便なので、①離婚自体を争わないとしても、離婚調停の手続きの中でそれぞれ②~⑥申立や主張を行い、決定しておくことが多いです。
②③については夫婦の各収入に応じて算定表により算出することになりますが、例えば配偶者のいずれかの浮気により離婚を争う状態になっている場合には(浮気をした配偶者など、夫婦関係を危うくする原因のある配偶者のことを有責配偶者といいます。)、婚費から有責配偶者の生活費を除くような算定を行う場合もあります。また、標準の養育費には国公立の学費が含まれていますが、高額な私立の学費は想定されていません、そこで、両親がそういった特別な教育機関を利用することに同意した場合にはその費用負担も決めておく必要があります。
④については婚姻期間中に夫婦が獲得した財産は1/2づつで分割します。もっとも、夫婦の婚姻期間中の収入によって獲得した財産をベースにするため、原則として、婚姻前に有していた財産や、婚姻中であっても例えば相続により取得した財産などは特有財産として財産分与の対象から除外されます。
⑤については原則として離婚時に分割の合意をする必要がありますが、婚姻期間中、国民年金の第3号被保険者であった方は合意なく分割請求できる場合があります。
⑥については養育監護していない親から、養育監護している親に対し、申し立てる方法により行います。例えば、妻が突然、子供を連れて別居し、子供と会うことができない状態になった場合に申し立てることが多いです。実務上、子供が幼い場合には母親優先の原則があり、基本的に母親に虐待やネグレクトが認められない限り、父親が親権を取得するのは非常に難しい状況になっています。他にも夫側から子の引渡し・監護者の指定を申し立てる場合もありますが、子供が幼い場合にはまず認められません。母親優先の原則については心情的には理解できる部分もあるのですが、妻が離婚条件を引き上げるために面会交流を利用する場合もあり、制度としては変えていかなければいけないのではないかと思うことも多いところです。
離婚事件に携わってきて思うところは、当事者間で離婚条件を詰め、合意した場合には実務的観点からは一方当事者に非常に不利な条件になっていることが多く、あまりにも一方当事者に不利な条件になっているため、最終的には履行できなくなる、というところまで行き、弊所にお越しになられる場合も多々ありました。合意後には条件を変更できる場合は多くないので、できれば離婚前に相談に来てほしかったと思うところです。
文責 山田