示談交渉について②

当職は、示談交渉による事件解決の経験が多いため、示談交渉について少しお話しします。

4 和解の見切り時

 和解の見切り時は重要です。

 およそ成立しない和解協議を続けることに意味はありません。

 例えば、先ほどの事例において、相手方がさしたる根拠もなく100万円程度を提示してきた場合、当職であればおよそ和解の成立しない相手方とみなし、すぐ法的手続きに移行した方がいいと依頼者にアドバイスすることになります。

 たまに、最初から強気の主張をした方が示談交渉を有利に進めることができると勘違いする弁護士がいます。しかし、いたずらに無茶な主張が最初に出てきたら、和解の可能性なしと判断し、すぐに法的手続きの準備を始めます。成立しそうもない和解協議を続けることは本当に無駄だからです。

5 依頼者説得

 依頼者説得というのは、依頼者と弁護士との間で、率直に状況を伝え、その時々の状況に応じ、和解に向けて依頼者をきちんと説得することです。

 これは依頼者との間で、都度都度に、進捗状況や依頼者の現在の立ち位置を正確に伝え、その根拠を説明することを繰り返し、依頼者とミュニケーションをしっかりと取り、依頼者との間の信頼関係が十分に醸成されていなければできません。かかる関係性がないまま、無理に依頼者説得をしようとしてもかえって弁護士への不信感のみが高まることになります。

 そして、この依頼者説得は、和解協議の最終段階で必ず必要です。

 これがしっかりできない弁護士は、相手方から提案があった和解案を持ち帰り、依頼者に意見を聞いて相手方にそのまま伝える、また、相手方から提案があれば持ち帰り、依頼者に意見を聞いてそのまま伝える、という作業を延々と繰り返すことになるため、和解の成立に非常に時間がかかるか、場合によっては相手方との交渉における信頼関係が消滅し、不成立になります。こういう弁護士のことを伝書鳩弁護士と呼びます。確かに、これなら代理人ではなく、使者といった方が正確かもしれません。

 現状で、依頼者のために一番利益のある結論は何か、このことを冷静に分析し、結論を見定め、必要に応じ、依頼者を積極的に説得する、という姿勢が弁護士には求められます。

6 その他

 そのほかに重要なことは、依頼者の真意は正確に把握する必要があるという点です。

 例えば、先ほどの事例で、依頼者Bは、500万円までなら減額されても仕方がない、とのことで、弁護士はそこを最低のラインとして交渉します。この場合に重要なのは、相手方から具体的に500万円の提示があった場合、依頼者Bが本当に500万円で納得するのかという点です。

 先ほど申し上げたように500万円ということであれば、訴訟を見越して、その費用や解決にかかる時間が短縮できるため、十分に和解を成立させるメリットはあります。しかし、依頼者は、本音では500万円での妥結を望んでおらず、500万円であれば事実上、負けに等しいと考えていた場合、やはり500万円での和解を急ぐべきではありません。特に最低ラインの確認という作業には慎重を要します。このあたりの依頼者の真意、相手方の本音は交渉の中でしっかり見抜く必要がありますが、それが可能になるには示談交渉の経験や社会経験が大きな助けになります。

 それから依頼者によってはおよそ法的には難しい無理筋の主張をとりあえず相手方にぶつけてもらいたい、と言ってこられる方がおられます。しかし、例えば、不貞の慰謝料、離婚に伴う財産分与、婚費・養育費の額など、多くの事例における裁判所の判断基準がネットを見ればすぐに確認できる時代になっていますから、とりあえずであろうと、そのような無理筋な主張を相手方にぶつけることは、結局、和解での解決を難しくさせるだけであり、利益がないばかりか、害悪が多いということも理解していただく必要があります。

 その他、示談交渉においては、さまざまに注意する点があります。示談交渉は繊細かつ大胆にメリハリをもって進める、示談の見切りは早めに無理なら速やかに訴訟に移行する、ということが必要であり、社会経験が役立つことから、当職のような社会人経験の豊富な弁護士が有用な分野と考えている訳です。

 文責 弁護士 山田