みなさんは、どのような基準で弁護士を選ばれるでしょうか?
弁護士を選ぶ際には色んな要素があると思います。法的知識、実務経験、意欲、誠実さ、個人的相性、報酬の多寡などです。法的知識や実務経験が重要なのは当然ですが、意欲や誠実さも非常に重要だと思います。
例えば、示談交渉の場合、着手金を支払い、示談交渉で解決すれば報酬金を支払います。
けれども、示談交渉において、弁護士が相手方とどこまで突っ込んだやり取りをしてくれているかは、正直、依頼者からは非常に分かりにくいところです。示談交渉は相手方があることなので、相手方の特性によってはそもそもまとまらない可能性もあります。
A弁護士に依頼して、A弁護士が一生懸命相手方と交渉してもまとまらない。B弁護士に依頼して、B弁護士はほとんどまともに交渉しないため、まとまらない。どちらも結論は同じですが、依頼者は弁護士から報告を受けるため、どこまできちんと交渉してくれているか分かりません。
例えば、弁護士に示談交渉を依頼した。弁護士は依頼者と話をし、具体的な事情をきいた上で、依頼者の希望は300万円だが、150万円が妥当な落としどころだろうと考えた。相手方と交渉を継続したところ、相手方からは150万円なら和解するとの提示があった。
この場合に、A弁護士は、依頼者に対し、300万円を請求されたいかもしれないが、これが訴訟等に移行し、判決になれば150万円くらいになるし、訴訟等になれば別途弁護士費用等(訴訟の着手金、印紙代等)がかかるから150万円でも和解した方がいいとアドバイスした。A弁護士と依頼者との間の信頼もあり、依頼者がA弁護士による説得に応じ、依頼者と相手方は和解した。他方、B弁護士は、事件について依頼者は150万円では納得しない様子であったので、依頼者を説得するのは面倒と考え、依頼者説得を全くせず、示談交渉を打ち切り、訴訟を提起した。後者の場合に仮に150万円の判決が出たとすれば、依頼者は訴訟の着手金等と解決までの時間を失うことになります。
訴訟に移行した場合に、どのような結論になるかは、弁護士でないと正確な見通しを抱くことは困難ですし、依頼者には分かりにくい。もっとも、訴訟に移行すれば弁護士にも予期できない証拠や事情が出てきたりし、見通しと異なる結論となることもあります。しかし、どうでしょうか、少なくとも弁護士がある程度、見通しを固めているのであれば、誠実に依頼者にお伝えし、依頼者を説得すべきではないでしょうか。
一般に示談が得意な弁護士はコミュニケーション能力が高い傾向がありますが、弁護士自身が示談で終わらせるという意思・意欲が高くないといくらコミュニケーション能力が高くても示談では終わりません。ところが、一般の方々は弁護士に依頼することは一生のうち、そう何度もある訳ではありません。目の前の弁護士が誠実な弁護士なのか、きちんと対応してくれるのか、分からない訳です。この点が一般の方が弁護士を選ぶ際に一番難しい部分かなと思います。
では、報酬の多寡により弁護士を選ぶのはどうでしょうか。
例えば、先ほど申し上げた示談交渉の際のやり取りは、弁護士の紛争解決業務のほんの一場面にすぎません。弁護士に依頼した場合、弁護士は依頼者に属する権利について広範な裁量をもって交渉、申立て、訴訟等をするわけです。また、事案によっては、紛争解決までに何年にもわたることも珍しくありません。このようなことを依頼する際に、ただ報酬の多寡だけで弁護士を依頼されるのは心配ではありませんか。
この点、現在、弁護士の報酬は、公取委からの独禁法違反の指摘により、旧弁護士報酬基準が廃止され、表向きには各事務所が自由に報酬を定めてよいことになっていますが、多くの事務所は旧弁護士報酬基準に従った報酬基準を定めており、弊所も同基準に準じた報酬基準を定めています。その上で、弊所では、相談者からお聞きした事件の具体的内容・難易度によって多少の調整をし、依頼を検討される際には事前に報酬額をお伝えするようにしています。
他方、報酬自由化を受け、法的紛争処理の手順や対象を細かく分類し、非常に分かりにくい報酬体系にした上で、一つ一つの費用は安く見えるものの、総額では高くなるように設定している事務所もあります。
上述の事情を踏まえて考えますと、報酬額の過多だけで弁護士を決めるのは危険です。また、仮に報酬の多寡により弁護士を決める方においても、旧弁護士報酬規程に準じる報酬規程以外の報酬規程を設けている事務所については、依頼の際に、報酬の総額はいくらになるのか、追加報酬の設定はないのか、あるとすればどういう条件なのか、をしっかりと確認されることが重要です。
そして、相談の際、目の前の弁護士が誠実であるか、信頼できそうか、自分との相性がよさそうか、話しやすいか、などの人柄を観察しながら、依頼したい紛争に関する知識や経験が十分か、も確認し、依頼先を決められるのが一番いいと思います。例えば、相談時に何か信頼できない言動を感じた場合、その直感は重要だと思います。あらゆる懸念を相談時に弁護士にぶつけ、曇りがなくなった状態で依頼できることが一つの目安になるのではないかと思います。
弁護士 山田