不動産紛争

借地・借家関係は複雑な法律関係であり、古くから契約関係が継続し、その内容も明確でないことも多く存在します。また、日常生活そのものに直結する場面でもあり、法的紛争に発展しやすい場面といえます。

さらに、借地借家法の適用もあり、賃貸人、賃借人いずれの立場からも早い段階で法律の専門家である弁護士のアドバイス・介入を受けることで無用な紛争を防止でき、不当な要求を受け入れることを回避できます。

第1 賃貸人から立ち退きを請求されている場合、賃借人は断ることができるのか

1 「正当の事由」のない立退請求は、断ることができる。

契約期間が設定された賃貸借契約において、賃貸人は、一般的には、賃貸借契約の更新日の6か月前までに、賃借人に対して更新をしない旨を通知した場合、賃貸借契約が更新されることはなく、更新日において契約を終了させ、立ち退きを請求することができる状態になります(借地借家法21条)。

もっとも、更新をしない旨の通知がなされたとしても、必ずしも賃貸借契約が終了するわけではありません。更新をしない理由が「正当の事由」でなければ、賃貸借契約は終了しません(借地借家法28条)。

賃借人の権利は法律上保護されており、「正当の事由」のない立ち退きの請求に応じる必要はありません。

2 「正当の事由」とは

正当の事由は、当事者双方が土地や建物等を使用する必要性、建物の利用状況、立退料の有無とその金額等を考慮して判断されます(借地借家法28条)。

例えば、賃貸人が建物を処分することを計画しており、建物の処分に取り掛かろうと準備しているのに対し、賃借人は借りている建物の他に、居住用の建物を所有しており、必ずしも借りている建物を利用する必要が無い場合などには、相互の必要性が比較的に検討され、正当の事由が認められる(立ち退く必要がある)と判断される場合があります。

また、賃貸借契約期間満了直前に、賃借人が新規の営業(事業)を行うために、賃貸不動産を利用し始めた場合、営業が開始している以上、一般的には賃貸不動産を使用する必要性は高くなります。しかし、期間満了直前である点を重視して、移転による顧客の喪失等の損害も小さく、賃貸不動産で事業を行う必要性は一般的な場合よりも低いとして、立退料の提供をもって、正当の事由が認められる(立ち退く必要がある)と判断されることもあります。

このように、建物を使用する必要性等は、判断が容易なものから、個別の事案に着目しなければ、正確に判断できないものもあり、判例や法律的な理解が必要になります。

第2 弁護士に依頼するメリット

1 適正な立退料を検討し、交渉できる

立退料の額は、正当の事由と大きく関わります。立退料を増額・減額交渉する際には、立退料を支払わない場合に正当の事由が認められる(立ち退き請求が認められる)見込みが、どの程度あるかということがベースになります。

賃貸人としては、正当の事由の見込みがあるのであれば、立退料は減額の方向に、無いのであれば増額の方向で交渉を進めます。一方で、賃借人としては、賃貸不動産を使用する必要性を手厚く主張し、立退料を増額する方向で交渉を進めることになります。

弁護士に依頼すれば、具体的な事案に即して、法律的な観点から適正な立退料を算定し、交渉を有利に進めてもらうことができます。

2 交渉、訴訟などがスムーズに進められる

賃借人の権利は法律上保護されており、また賃借人は、立ち退き請求により住む場所や営業する場所を失うことになるため、立ち退き請求に応じない場合も少なくありません。反対に、賃貸人が、賃借人の権利を無視して、一方的に立ち退きを請求する態度を取り、交渉がスムーズに進まない、長期化するという場合もあります。弁護士に依頼することで、このような交渉のストレスを軽減することができます。

また、弁護士は法律の専門家としての立場から交渉するため、相手方を説得できる可能性も高くなります。

そして、もしも交渉で折り合いがつかなかったとしても、明渡請求訴訟や強制執行を行うこととなったとしても、交渉段階から事件を担当していた弁護士であれば、事情を把握しているため、その後の手続きにもスムーズに対応できます。

第3 立ち退きの相談を進めるポイント

1 関係書類をまとめる

賃貸借契約書や重要事項説明書は、賃貸不動産の利用形態が分かる書類なので必要になります。法律相談の際に持参しましょう。

また賃貸借契約締結の経緯も正当の事由の判断に役立ちます。経緯等から賃貸借を継続する必要性が高いと判断された場合、立退料は高額になります。法律相談時に経緯を思い出せなかったり、うまく伝えられなかったりする場合に備えて、簡単にまとめておきましょう。

2 事前の確認

過去に賃料の不払いや、賃借人による必用費(雨漏りなどの修理を実費で立て替えた場合に賃貸人に請求できる費用)の支出が無いか等、賃貸借契約に関係する債権・債務が無いかを確認しましょう。賃料等の不払いも立退料の算定に影響します。

また、引っ越しする予定の不動産の賃料、敷金、礼金等、移転にかかる費用も何件か確認しておきましょう。現在、賃貸・賃借している不動産と環境や賃料等条件が近ければ、移転費用も立退料に考慮されます。